不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
「あれっ? 千帆さんじゃない?」
その途中、なぜか私を呼ぶ声がした。振り向くと、ひとりの長身男性が私を見つめている。濃紺の制服に制帽という凛々しい姿を見て、私はきょとんと目を丸くした。
誰……?
こんなに見目麗しいパイロットの知り合い、いなかったと思うんだけど。
「どちらさまでしょう?」
訝し気に眉根を寄せると、パイロットの男性はこちらに歩み寄りながら制帽を取る。
帽子の影になっていた甘い垂れ目がハッキリ認識できると、私は「ああ!」と思わず声を漏らした。
「こんにちは。すみません、制服姿だったので、すぐに夕飛さんとわかりませんでした」
「ああ、よく言われる。制服着て黙ってた方が三割増しでカッコいいって」
「はぁ」
ニコッと微笑む彼に、曖昧な返事を返す。
そういえば、夕飛さんはこういう人だった。なぜ斗馬さんと仲がいいのか首を傾げたくなるほど、斗馬さんとは真逆の軽い性格。そしてこの人こそが、斗馬さんをよからぬ道へ誘い込んだ、諸悪の根源。
斗馬さんの悪事も、この人なら全部知っているのだろう。
……今日という日に偶然会えたのも神様の思し召しかもしれない。この際、全部ハッキリさせてしまおうか。