不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
身を硬くしている間に誓いのキスが終わり、ホッと胸を撫で下ろす。
「これからは、数えきれないほど夫婦でキスをしような」
「まっ……。え、ええ。そうですね」
まっぴらごめん、と口走りそうになったのを慌てて堪えた。
斗馬さんはきりりと吊り上った目を細め、幸せそうに笑う。
艶やかに固められた前髪が潮風ではらりと額に落ち、それだけで画になる完璧な容姿に無性に腹が立った。
そんな風にのんきな顔をしていられるのも、結婚式の間だけ。ふたりきりになったら、離婚を切り出してやるんだから。
斗馬さんの隣で幸福な花嫁を演じつつ、腹の内で決意を固めた。
船内での披露宴を終えた頃には夜だった。今夜はゲストも含め、このクルーズ船に一泊する。
着替えを終えた私と斗馬さんは、六階のロイヤルスイートルームに移動した。
ブラウンと赤を基調とした豪華なインテリアは、ラグジュアリーホテルのスイートと相違ない。
リビングの窓からはもちろん、バスルームからも大海原を眺められる構造になっている。
普通の新婚夫婦なら、この部屋でたくさんの甘い時間を過ごすのだろう。
しかし、今の私は甘い時間を過ごすどころか軽く寛ぐ気にもなれない。