不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
これも彼の作戦かと思うと悔しいけれど、料理に罪はない。なにより空腹がそろそろ限界だった。
「はい。大好きです……。早速、いただいていいいでしょうか」
「もちろん」
「いただきます」
はやる気持ちを押さえて両手を合わせ、スプーン握ってシチューをすくう。
口に含んだ瞬間、まろやかなデミグラスソースの味わいが舌に広がり、ほんのり感じる赤ワインの香りが鼻から抜けた。
「美味しい……最高です」
うっとりしながら呟くと、斗馬さんはふっと微笑む。
「そう喜んでもらえると、作った甲斐があるよ」
「これ、時間がかかったんじゃないですか? 肉がほろっと崩れて舌の上で溶けます」
「それは圧力鍋のおかげだな。本当は二日くらい煮込みたいところだが、仕事の後だったから楽をさせてもらった」
斗馬さんが言いながら、キッチンのIHヒーターの方に視線を投げる。そこにはスタイリッシュな黒の圧力鍋が置かれていた。