不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす

「なるほど。私も結婚するにあたって料理はかなり特訓したんですけど、斗馬さんに変なものをお出しするわけにはいかないと、そういった便利グッズに頼る発想がなかったんです。でも、絶対に使った方が効率的ですね」
「ああ、ただ、お互い仕事のある身だ。無理して毎日手料理にすることはない。もちろん、休日に千帆が手の込んだ料理を振舞ってくれるのも楽しみにしてるけどな」

　斗馬さんから期待のこもった眼差しを送られ、ハッとする。

　しまった。話の流れで斗馬さんに手の込んだ料理を振舞うことになっている。

　断ればいいんだろうけれど、こんなに美味しいビーフシチューを作ってもらった後では言いづらい。

　たとえ圧力鍋を使っていたって、仕事の後で私のために時間と労力を割いてくれたことに変わりはないもの。

「わかりました。なにかリクエストはありますか？」
「きみの作ったものならなんでも食べてみたいから、千帆に任せるよ」
「なんでもいいが一番難しいんですけど……考えておきます」

　ビーフシチューのおかげで、すっかり斗馬さんに対して強く出られなくなってしまった。

　それすらも彼の作戦の内だとしたら、本当に手ごわい。

　引き続き警戒心を抱きつつもビーフシチューはやっぱり美味しくて、残業の疲れも自然と癒されていった。