不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
「千帆、ソファの前に座って」
斗馬さんはそう言うと、素早くコンセントを穴に差してソファに移動する。
ぽかんとしていた私はようやく状況を飲み込み、立ったまま顔の前で両手をブンブン振った。
「いえ、わざわざ斗馬さんの手を煩わせる必要はないです。自分でやりますから!」
「別に手間だと思っていないよ。むしろ役得だ、千帆の綺麗な髪に触れられるんだから」
ソファに腰を下ろした斗馬さんが、軽い調子で言う。
そんなこと言われたら、なおさら拒否したい……。
しばらく躊躇したけれど、「ほら、早く」と斗馬さんにせかされて、私は仕方なく彼のもとへ歩み寄る。
指示されたラグの上に腰を下ろすと、斗馬さんがドライヤーのスイッチを入れて私の髪を乾かし始めた。
ソファに腰かける斗馬さんの膝と膝の間で、彼の体に包み込まれているような体勢が恥ずかしい。斗馬さんは私の髪をすくってサラサラと指の隙間から落としつつ、温かい風をあてる。
時々、彼の指先が軽く耳や首筋に触れたりするものだから、その度に近すぎる距離を意識して胸が高鳴った。
「……できた。やっぱり、ちゃんと乾かした方が艶も出て綺麗だろう」
カチッとドライヤーのスイッチを切り、斗馬さんが満足げに言う。