不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
「おい、ちょっと待て、斗馬」
なぜか追いかけてきた夕飛が、通路の途中で俺を呼び留めた。
「なんだ? もうあの場には戻らないぞ」
「わかってる、無理やり誘った俺が悪かった。お前ろくに食べてないし、会計は俺が持つよ。それと、お詫びに……」
そう言いかけた夕飛が、通路ですれ違った女性店員を呼び止める。
「確か、天使の持ち帰りってできますよね? ひとつお願いしたいんですが」
「かしこまりました。レジの前で少々お待ちください」
こういう時の夕飛は、アイドル顔負けの甘い笑みを浮かべて女性の心を攫う。
今回の女性店員も頬をみるみるうちに赤く染め、急いでバックヤードへ向かって行った。
「なんなんだ? 天使って」
「お前が楽しみにしてたブッラータだよ。ふわっとして白い見た目からこの店では『天使』って呼ばれていて、店の在庫に余裕があればテイクアウトできるんだ」
「なるほど。恩に着る」
帰り際に受け取った天使は、冷凍の状態だった。食べる十二時間前に冷蔵庫へ移し、ゆっくり解凍すれば新鮮な状態で食べられるという。