不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
言えない愛してる◇離婚成立まで83日

 六月下旬、梅雨真っただ中の土曜日。

 振り続ける雨で外は薄暗く、気持ちもどんよりとしてしまいがちの毎日だが、今日は社内プレゼンでいい結果が出たので気持ちは上向きだった。

 佐藤くんの企画が初めて通ったのに加え、私が前々から温めていた『造船所見学ツアー』にもGOサインが出たのだ。

 真宮クルーズの営業企画部でこなす仕事の数が増えていくにつれ、お客さんの中には船そのものに魅力を感じている人も多いのだと知った。

 大海原の景色や豪華な客室より、船首の構造やエンジンルームの位置、船の推進方式などに興味を持つマニアもいる。

 そこで思い出したのが、斗馬さんがまだ十代の頃に話してくれたこんな話だった。

『車や飛行機と違い、船はひとつの設計図につき基本的に一隻しか作られない。世界にひとつだけの船が、人や物を運び、流通や観光業を支えている。俺は、剣先造船が誇る世界一の造船技術で、多くの人の暮らしを豊かにするのが夢だ』

 斗馬さんはその夢のために大学で船舶海洋工学を学び、自らも設計図面を描けるほどの技術を持つ。

 またすさまじい記憶力の持ち主でもあるため、剣先造船が手掛けた船の設計図はほとんど、頭の中に入っているそう。

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