不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
「あ、よかった。まだ帰ってなくて」
廊下からオフィスに戻ってきた佐藤くんが、私の姿を見つけて相好を崩す。
彼も帰ったのかと思っていたけれど、その手に缶コーヒーを持っているので、どこかで休憩していただけらしい。
「どうしたの?」
「今さっき、チームの先輩方から電話があってさ。近くで飲んでるから、一緒にお疲れ様会をしないかって。俺たちのプレゼンが上手くいったの、お祝いしてくれるらしいよ」
「あ、ごめん。私今日は……」
これから夫と予定がある。そう話すため、とっさに手元のスマホを見る。
すると、画面に表示されていたのは、斗馬さんからの意外なメッセージ。
【ごめん、取引先から急な食事会に招かれてしまった。夕食、ひとりで大丈夫か?】
ということは、私との約束はキャンセルか……。
それにしても、なんて過保護なのだろう。子どもじゃないんだから、ひとりで夕食くらい取れるに決まっている。
「千帆ちゃん、無理そう?」
思わず苦笑を漏らしていたら、頭上から佐藤くんの声が降ってくる。
私は斗馬さんのメッセージと彼の顔を交互に見て、「ううん」と笑った。