不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
「夫と食事の約束をしていたけど、潰れちゃったところ。チームのみんなが一緒なら行こうかな」
「よかった。じゃ、先輩たちに伝えておく」
言いながらスマホの操作を始める佐藤くんを横目に、【私も今日は会社の人たちと食事してきます】と斗馬さんにメッセージを送る。
帰り支度を済ませると、佐藤くんと連れ立ってオフィスを出た。
会社から歩いて十分ほど。彼の案内で連れてこられたのは、明るく家庭的な印象のバーだった。木製のカウンターに白いレンガの壁、やわらかい暖色系の照明。こういった店に不慣れな私でも、気兼ねなく寛げそうな店だ。
同僚たちはどこにいるのだろうと、カウンター席の後ろ、テーブル席が並んだスペースをきょろきょろする。
「千帆ちゃん、こっち」
カウンターの前を横切り、さらに店の奥へ進む佐藤くんについていく。
その途中、彼がカウンターの中でグラスを拭く中年の男性に目配せをした。男性はちょっぴり強面で、黒いシャツを身につけた体は筋肉質。
なんとなく怖い印象を抱いてしまうが、見た目で判断するのは失礼だと自分を窘める。
彼はきっとこの店のマスターで、佐藤くんは私たちが先に来ている同僚たちの連れだと、無言で伝えたのだろう。