不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
「千帆ちゃん、きみはどこまで知ってる? 剣先斗馬の犯した罪について」
言葉の内容とは裏腹に、軽い調子で佐藤くんが言った。
「えっ……?」
罪という言葉の重みに、胸がざわつく。でも、斗馬さんに限って犯罪やそれに近いことを犯すなんてありえない。きっと、比喩的に罪と言っているだけ。
そう自分に言い聞かせるものの、ドクドクと心臓が脈打つ。
「この部屋さ、俺の妹のものなんだけど」
「妹さん……?」
聞き返すと、佐藤くんは一度頷いてから、淡々と言葉を継いだ。
「妹は四年前、剣先造船の作った、そして剣先のグループ会社が運行させている観光船で船上火災に遭ったんだ。命に別状はないけど、腕に大きな火傷を負った。今も皮膚科通いを続けなければならないほどのね」
四年前の船上火災――。それはもちろん、私も知っている事故だった。
当時まだ専務だった斗馬さんは偶然にも、現場の視察のためその船の上にいたと聞いている。
斗馬さんは船員たちとともに必死で避難誘導にあたり、その立派な姿が世間に大きく称賛された。事故の被害が最小限で済んだのは、勇気ある剣先造船の若き専務の行動のおかげだと。しかし、数人のけが人は出たのは確かだ。
その中に、佐藤くんの妹さんが……?