不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす

「妹はそれからふさぎ込むことが多くなって、病院へ行くのと、夜の散歩以外はこの部屋にこもりきりだ。今も長い散歩に出かけている最中だが、どこかで変な気を起こさないか毎日俺や親父は心配してる。事故の前まで恋人もいたのに、自分からフッたらしい。火傷を負ったのは顔じゃないけど、醜くなった自分を見られたくないって」
「そうだったの……」

 大切な自分の体に傷を負い、恋人と別れて心にも傷を負った妹さんを思うと、気の毒でならない。佐藤くんが胸を痛めるのも当然だ。

 しかし、だからといって斗馬さんを恨むのはお門違いだ。

 たとえ事故が起きた船が剣先造船の製造した船で、運行していたのがグループ会社でも、彼やそれぞれの会社に落ち度はなかったはず。

 私は当時の記憶をたどり、知る限りの情報を佐藤くんに伝える。

「あの火災の原因は船のエンジンや電気系統のトラブルでもなく、船員たちのヒューマンエラーでもなかったはずよね。船の上は禁煙であるにもかかわらず隠れて煙草を吸った、極めて悪質な乗船客が引き起こしてしまった事故。第三者機関が行った調査でそれは明らかになっている。それなのに、どうして斗馬さんの罪だというの?」

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