不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす

「へえ、利用されてくれるんだ。剣先斗馬を裏切ることになるかもしれないけど?」
「私は剣先家の嫁。もちろん夫を信じているけれど、万が一彼にとって不都合な事実があったとしても、すべてを知る必要があると思う。だから、利用されるわけじゃない」

 きっぱり言って、佐藤くんを見つめ返す。彼は小さく口笛を吹き、茶化すように言った。

「さすが、旧財閥家に嫁ぐような女性は肝が据わってるね」
「ばかにするなら協力したくないわ」
「めっそうもない、ご協力感謝します。そうだ、帰る前に親父にも報告するから来て」

 妹さんの部屋を出て、店内へ戻る。お父さんは相変わらずのしかめ面でカウンターに立っていたけれど、佐藤くんの話を聞くと途端に腰が低くなった。

「本当ですか、ご協力いただけると言うのは」
「ええ。私にできる範囲で、ではありますが」
「どうかお願いします。このままじゃ、美鶴(みつる)がかわいそうでかわいそうで……」

 美鶴さん。それが佐藤くんの妹の名前らしい。お父さんも、彼女の火傷に隠された秘密を明らかにしたいのだ。当の美鶴さんは、長い夜の散歩からまだ帰ってこないけれど。

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