不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
「じゃ、そろそろ出よう」
「うん」
佐藤くんとともに店の外に出ると、今にも消えそうな細い三日月が空に浮かんでいた。タクシーを拾うため大通りまで歩いていく途中、佐藤くんがふと呟く。
「千帆ちゃん、変なことに巻き込んでごめん」
「えっ?」
先ほどまでとは別人のようなしおらしい態度に、思わず眉根を寄せる。見上げた先の佐藤くんは、前髪の隙間から、少々弱気な目を覗かせた。
「ずっと、剣先斗馬のせいであればいいって思ってたのにな……。千帆ちゃんがヤツの奥さんだと思うと、今まで抱いていた憎しみがぶれ始めたような感じがして」
「佐藤くん……」
「もしかして、俺の考えてることってただの妄想? いやいや、剣先斗馬は悪者に違いない。そうやって、自分の中にいる別々の心が喧嘩してる感じ」
今まで、妹さんの側からしか事故のことを知らなかったのだから、無理もないだろう。
今回、私から改めて事故のことや斗馬さんの人柄を聞いて迷いが生まれるのは、至極自然な流れだ。