不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす

「私の力で、納得できる答えが得られればいいけれど」
「うん。あの事件の真相を知るまで、俺たち家族の時間は動かない。俺の勝手で巻き込んで悪いけど、頼りにしてる」

 斗馬さんや剣先家について語るときは乱暴な物言いにもなった彼だけれど、本当はわかっているのだ。その怒りは理不尽なもので、いつかおさめなくてはならないものだと。

 やがて広い道に出ると、佐藤くんが手を上げてタクシーを止めてくれる。

 私はそれにひとりで乗り込み、シートに深く体を沈めた。

 斗馬さんが帰ってきたら、さっそく四年前の船上火災について聞いてみよう。



 マンションにつき、エレベーターで自宅のある三十階へ向かう。

 鍵を開けて玄関に入ると、斗馬さんが愛用する一流ブランドのストレートチップが美しくそろえて置いてあった。

 もう帰ってきたんだ。ずいぶん早いな。

 靴は一日履いたはずなのに汚れひとつなく、美しい艶もそのまま。育ちの良さが歩き方にも出ているのだろう。

 毎日、そういうささいなことに感心せずにはいられない。

 離婚を決めたのはどうしてだっけと、危うく忘れそうになる時もある。かといって、完全に忘れてあげられるほど心が広いわけではない。

 私の胸には、まだしこりが残っている。

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