不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
「なのに……」
「ん?」
「なのにどうして、天使とは間違いを犯したんですか……?」
昂る感情のままに、私は彼にそんな問いをぶつける。
やっぱり私は酔っている。感情が大きく揺れるのはそのせいだと思いつつも、自分では制御できない。
「天使? なんのことだ?」
斗馬さんが、美しい眉を中央に寄せて怪訝な顔をする。
浮気は認めているくせに、相手の女性については教えたくないの? 妻である私より、そちらの女性を優先するの?
ぶつけたい疑問は山ほどあったが、口にしたら自分がますます取り乱すのが想像できた。そうなったらレストランに迷惑をかけるし、斗馬さんにも変な噂が立ってしまうかもしれない。
今の私はまだ、剣先家の嫁なのだ。
わずかに残っていた理性がそれを思い出させ、私は大きく深呼吸をした。
「……ごめんなさい、変なことを口走って。本当に酔ってしまったみたい。やっぱり、お水をいただきます。ガスなしの方をお願いできますか?」
「あ、ああ。わかった」
斗馬さんは腑に落ちないような顔をしながらも、個室の内線で水を注文してくれる。
その後もなんとなく探るような目で私を見つめてきたものの、気持ちを切り替えて料理を楽しみ始めた私を見て、彼の表情も次第に和らいでいった。