不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす

 佐藤くんは斗馬さんが放つ圧倒的なオーラに気後れした様子で、オドオドと挨拶する。

「はじめまして、剣先です。千帆がいつもお世話になっています」

 斗馬さんは大人な対応でにこやかにお辞儀をし、それから腕時計を見ると残念そうに苦笑した。

「そろそろタイムリミットだ。またな千帆。仕事頑張れよ」
「は、はい……。斗馬さんも」

 斗馬さんは風のように去っていき、後には彼の纏う大人っぽいフレグランスの香りだけが残る。忙しいのに、こんな数分のためだけに横須賀の造船所に寄ったらしい。

 ……私の顔を、ひと目見たいという理由で。

 改めてそう思うとぶわっと顔に熱が広がり、慌てて頭を左右に振る。

 間もなく先ほどの担当者がやってきて、グラスに入った玉露茶を私と佐藤くんに出してくれる。

 とても冷たくて美味しいお茶だったけれど、斗馬さんのせいでなかなか体中にこもった熱が出て行かず、打ち合わせの最中も暑くて仕方がなかった。

< 81 / 172 >

この作品をシェア

pagetop