不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす

 一日のほとんどを造船所の見学や打ち合わせに費やしたため、帰社して軽く今日得た情報をまとめていると、あっという間に定時になった。

 椅子に座ったままうーんと伸びをして、帰り支度をする。紗那に連絡しようとスマホを持ったところで、本人の声が直接耳に届く。

「千帆~、終わった? すぐ行けそう?」

 オフィスまで迎えに来てくれたらしい紗那が、私のデスクを見下ろして尋ねる。

「うん、今出ようとしていたところ」
「よかった。何食べよっか~」

 椅子から立ち上がり、同僚たちに挨拶しながらオフィスを出る。紗那が率先してレストランの情報をスマホで探し、行き先は人気のイタリアンレストラン、ラ・カゼッタに決まった。

「とにかくチーズが美味しいんだって」
「へぇ、楽しみ」

 紗那を誘った目的は悩み相談とはいえ、女友達との食事をすること自体久しぶりだったので、心が弾む。

 美味しい料理を食べながら色々吐き出して、少しは気持ちが軽くなるといいな。そんな期待を抱きつつ、紗那と会社を出る。

 徒歩十分ほどで到着したビルの一階に、ラ・カゼッタはあった。

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