不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす

「妹のために真宮クルーズに潜り込んだはずなのに、春からずっと千帆ちゃんに仕事教わってるうちに、目的を忘れそうになった。千帆ちゃんに探りを入れなきゃって思いつつも、一緒に仕事するのが楽しくて、なかなか言い出せなくて」

 街灯に照らされた夜の歩道で、まっすぐ向き合った佐藤くんの言葉に耳を傾ける。

 真宮クルーズでの仕事に楽しさを感じてくれるのはうれしい。妹さんのためだけに生きるより、ずっとその方が健全だとも思う。でも、きっと今彼が言いたいのはそこじゃない。

「千帆ちゃんは、俺の元気の源。かわいくて真面目で、社長令嬢なのに全然高飛車じゃなくて、妹の件も嫌がらずに協力してくれて……なんかもう最近、きみが既婚者って事実が、ホントつらくてさ」

 泣き出しそうな目をして、佐藤くんが訴える。彼の胸の痛みが伝わって、私まで苦しくなる。でも――。

「千帆ちゃんが好きなんだ。浮気者の旦那より、俺を選んでほしい」

 佐藤くんがどんなに真剣に私を想ってくれていても、私はその気持ちに応えられない。

 生まれた時から斗馬さんの許嫁で、ひな鳥のように彼だけを追いかけて、いつかこの想いが実を結びますようにと願い続けた日々は、たった一度の浮気で色褪せたりしない。

 たとえまだ彼を許せてはいなくても、私は斗馬さんと夫婦でいることを、あきらめたくないのだ。

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