不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
言われるまで、すっかり頭から抜け落ちていた。
バルセロナの港からクルーズ船に乗り、スペイン、フランス、イタリアを巡る、八日間の新婚旅行。私の仕事はお盆が繁忙期なので、それを乗り切った後で思い切り楽しもうと、ワクワクしながら斗馬さんと計画を立てていたんだった。
まだ結婚式を挙げる前、デート中に立ち寄ったカフェで同じスマホを覗き込み、旅行先や食べたいものについてああでもないこうでもないと言い合っていた、温かい記憶が蘇る。
あの時想い描いていたような、幸せな新婚旅行がしたい。斗馬さんを許すとか許さないとか、そんなことは一旦忘れて、甘い新婚夫婦を演じたい。
たとえそれが、離婚前の思い出のうちのひとつになってしまうとしても……。
「それでも早すぎると思うなら、きみの気持ちを尊重するが――」
「いえ、大丈夫です。新婚旅行までに覚悟を決めます」
私は、まっすぐに斗馬さんの目を見つめ返した。
「本当にいいのか?」
「はい。その時が来たら、あなたにすべてを捧げます」
恥ずかしさを堪えて宣言すると、斗馬さんは感じ入ったようにギュッと目を閉じ、改めて私を腕の中に閉じ込める。