毒令嬢と浄化王子【短編】
 青年の手を乱暴に振りほどいて、胸を突き飛ばす。
「えっと……」
 青年が驚いた表情で私を見ている。
「噂は本当なんです。私の体は全身毒なんです。だから触ると、赤く腫れあがったりかゆみが出たり……。酷いと熱で寝込んだり吐き気がしたりと……」
 心臓がバクバクと激しく音を立てる。
 3年前に森の中のこの家へと来てからは、誰かを毒で傷つけることも無かった。
 そう、誰にも触れることはなく生活していたのだ。だから、久しぶりに人に触れられて驚きのあまり思わず激しく反応してしまった。
「あ、あの、驚いてしまってつい突き飛ばしてしまいましたが……手……大丈夫ですか?」
 青年がふっと楽しそうに笑っている。

「人に突き飛ばされたのは初めてだ……」
 その言葉に思わず視線を落とす。
 悪かったとは思っているけれど、わざわざ言わなくても。許可も無く女性の手を握る方にも問題があると思うけど……。
 まぁ、目の前の彼が、私のことを女性……淑女として見ていないという可能性もあるから、言えないけど。
「ああ、ごめん、ほら、見て、大丈夫だから。心配しなくても、ほら!」
 青年が手の平をこちらに向けて見せる。
「え……っと、本当ですね……あの、他に具合が悪いところは?」
 豆で凸凹になった手。剣を握る手だ。それも鍛錬を怠らないでいた手。
 商人じゃなくて騎士なのかな?
 下っ端兵士ではなく、騎士であれば貴族か一定金額の税を納めている者しかなれない。主に家督を継げない次男三男の就職先として人気がある。騎士爵という貴族位を賜れるので、平民落ちをしなくて済むからだ。
 あれ?だとしたら、私と同じような孤独な生活はしてないよね?距離を詰めて話をすることがないって言ってたけれど……。
 砦の見張り台にでもずっといたのかしら?いやいや、交代するときに引継ぎで会話しますよね?
「全然悪いところはないよ。むしろ、嬉しくて元気が出た!」
 元気が出たというのは私を和ませようとした冗談だとしても、見たところ触れた手も体もどこも悪そうじゃないことにほっとする。
「ところで、何をしていたの?しゃがみ込んでただろ?」
「え?」
 何しに来たのかと尋ねようと思っていたのに、先に質問されてしまった。青年が指さす先はさっきまでいた畑の一角だ。
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