公爵の娘と墓守りの青年
「けど、何ですか? ウェル様」
「姪殿は行方不明なのに、勝手に決めるのは申し訳ないよ。それに、僕はまだ戴冠式もしていないんだよ?」
眉を寄せて、ウェルシールは呟き、カップを両手で包む。
「だからこそですよ。戴冠式後の方が大変になりますよ。貴族達の『自分の娘を!』合戦。それで宜しければ、私は今後、何も言いませんが」
両腕を組み、エルンストは目の前に座る主を見下ろした。
ウェルシールはエルンストの言葉に苦い顔をした。
自慢や相手を蹴落とすことしか知らない貴族達の娘より、行方不明で会ったことはないが、欲もなく優しく接してくれるウィンベルク公爵マティウスの姪なら、ちゃんとした女性かもしれない。
妥協するわけではないが、行方不明中のウィンベルク公爵の姪に、ウェルシールはほんの少しだけ希望を込める。
「……と、とにかく、ウィンベルク公爵の姪殿を僕達も探すよ」
「はい。承知してますよ。準備は整えてます」
大きく頷き、エルンストは微笑した。