公爵の娘と墓守りの青年
「それと……トイウォース殿の動向も」
「分かってます」
「あと、もう一つあるのだけど……」
言いにくそうに、ウェルシールは上目遣いに目の前に立つエルンストを見上げた。
「何でしょうか、ウェル様」
「カイさんのことももう一度、調べてもらえないかな……?」
「……ウェル様。貴方はどれだけ墓守りが大好きなのですか」
呆れた表情でエルンストは息を吐いた。
「どうしても、カイさんのことが気になるんだ。前にエルンストが用意してくれた資料を何度も読んでも謎だらけだから」
やや俯き加減にウェルシールは呟いた。彼の机にはその資料も広げられている。
ウェルシールの言葉に、近くで聞いていたイストは目を剥いた。
(……エルってば、隊長の何を調べて謎だらけの資料にしたんだ?)
また咳き込んだら怪しまれると思ったイストは咳き込む前に、慌てて口に含んでいたお茶を飲んだ。
確かに事情を知らない者が端から見ると、カイは謎だらけではある。
あるのだが、何をどうしたら謎だらけの資料になるのだろうか。
(隊長が物語の主役になる前に、墓守りになった経緯をトーイ様が辻褄を合わせるように整えていたのに)
顔を顰め、イストはカップの中にある残りのお茶を啜る。