公爵の娘と墓守りの青年
「はっ。失礼します」
ワルトは敬礼して、トイウォースの部屋を後にした。
ワルトが去ったのを確認したトイウォースは大きく息を吐いた。
先程までの冷徹な表情と違い、眉を寄せて苦い表情を浮かべ、口を手で押さえた。
「ウェル、ごめん……」
泣きそうな顔で口に手を当てたまま、トイウォースは小さくそう洩らした。
彼のその目は先程にはなかった優しさが宿っていた。
トイウォースの屋敷を出たワルトも馬車の中で大きく息を吐いていた。
屋敷の敷地を出た今、ようやく緊張が解けたような気がする。
自分の子供とあまり変わらない年齢のトイウォースに、何故か怯えていた自分が不思議でならないワルトは首を傾げた。
「……突然、トイウォース様の性格が変わられたのはいつからだ……?」
そう呟き、ワルトは小さく見えるトイウォースの屋敷を見た。
トイウォースの幼い頃から知っているワルトは、今の彼が不思議でならない。
何年か前ではとても優しく聡明で、何よりウェルシールを本当の弟のように可愛がっていたのだ。
そんなトイウォースが自ら王位で従弟と争うとは、ワルトは予想もつかなかった。