公爵の娘と墓守りの青年

泣きそうな顔でサイラードはリフィーアの身を案じる。
従兄の言葉に、リフィーアは何も言い返すことが出来なくなった。
十二年前に叔父の家族に心配を掛けてしまったことがあるからだ。

十二年前。
リフィーアがまだ四歳の頃。
このカエティスの都の奥にある聖堂の近くで、黒い布を頭から足の先まで覆い被さった見知らぬ老人が、サイラードと共にいた幼いリフィーアを連れ去ろうとしたのだ。
その様子をたまたま目撃した通りすがりの青年が助けてくれたおかげで、こと無きを得たが、もし、助けてくれた青年がいなかったら、リフィーアはこの世にいなかったかもしれない。

リフィーア自身もそのことを大体は覚えているし、顔は覚えていないが助けてくれた青年にも感謝をしている。
それでも、リフィーアはカイがいる墓地に行きたいのだ。
まだ、自分の両親のことをしっかり聞いていない。
どんなことがきっかけでカイと両親は出会ったのか、どんな会話をしたのか……まだまだたくさん聞きたいことがある。

「……サイラードお兄様には申し訳ありませんが、私は墓地に行きます!」

そのことだけを残して、リフィーアは自宅を飛び出した。
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