公爵の娘と墓守りの青年
「たくさん、いましたけど……」

「そのカラス達に、食べられたんだ。俺の食事」

「……はい?」

がっくりとうな垂れて大きく溜め息を吐く男に、リフィーアは固まった。

「えっと……カラスに、ですか……?」

「そう! そのカラスにね、食べられたんだ。俺の食事。ここ五日間は連敗だよ」

最近は勝ってたのに……と男は呟き、大きく息を吐いた。

「……も、もしかして、それだけの理由で倒れてたんですか……?」

呆れた顔で、リフィーアは呟くように尋ねた。

「そ、それだけ?! 五日間、何も食べれなかったんだよ! 君のパンで助かったけど。ここのカラスはね、食い意地が張ってて毎日が戦いなんだ……!」

そう言いながら、男はぐっと拳を握った。

「そ、そうですか……」

握り拳で熱く語る男に気圧され、リフィーアは一歩後ろに下がった。

「君は知ってるかい? ここのカラスの口ばしは凶器なんだよ。更に多勢でやって来て、俺に攻撃を一斉にするんだ……。あの痛さは屈辱以外のなにものでもないよ……」

尚も握り拳で熱く語る男が袖を涙で濡らした。

「そ、そうですか……」

もう一歩後ろに下がり、リフィーアはとりあえず相槌を打った。

(さっきの地鳴りのような音はこの人のお腹の音だったのね……。どうして、私、助けちゃったんだろう……)

涙を全く流していないが、顔を袖に当てる素振りをする男を呆然と見つめながら、リフィーアは思った。そして、少しだけ後悔した。

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