公爵の娘と墓守りの青年
六章 嘆きと襲撃
――苦しい……。
――誰か、この声に気付いてくれ……!
暗い、真っ暗な闇の中で、青年は叫んだ。
『誰も、お前の声には気付かぬ。いい加減、諦めて我に明け渡せ』
青年の叫びに反応して、低い声が闇の中で響く。
「……諦めたら、お前は大切な従弟に危害を加えるではないか。前ウィンベルク公爵の娘や色々な人達にも……!」
苦しげに口を押さえ、目の前の闇を青年は見据える。
「女神を手に入れるという自分勝手な欲望のために、色々な人達を巻き込ませるわけにはいかない」
苦しそうに眉を寄せているが、強く睨むように青年は闇を尚も見据える。
『……フン。お前の精神もあと少しで消える。安心しろ。お前の大切な者達を切り刻んでやろう。憎いカエティスとお前の前でな。ハハハ……!』
闇の中で低い声が笑う。
その響く笑い声を聞いた青年は悔しげに唇を噛んだ。
(……どうすれば……どうすれば、ウェル達を守れる?)
――どうすれば、この闇から抜けられる……?
(伝説の守護騎士、カエティス。本当に居るのなら、どうか、ウェル達を守って……)
闇の中で青年は上を見上げた。
上を見上げても闇。
周囲を見ても闇。