公爵の娘と墓守りの青年
「……あの子が公爵の娘なんだろう? 話さなくていいのか?」
リフィーアと別れ、小屋に入った途端、低い声がカイに尋ねた。
「話さないよ、ビアン。話してしまったことで、巻き込んで危険な目に遭わせたくないし」
息を小さく吐いて、カイはビアンを見た。
「話さずに危険な目に遭った時はどうする?」
「その時はしっかり守るよ。ところで、ビアン。俺の背中に乗るなって、いつも言わなかったっけ?」
両腕を組んで、横目でカイはビアンを見下ろした。
「お前が空腹で倒れて落ち込んでいたと思って、元気づけようとやっただけだろ」
「ちょっと待った。その言い方から察すると、俺とカラス達の食事攻防戦を助けずに、ビアンは始めから見ていたってことだよな?!」
「ま、まさか〜」
しまったと言いたげな表情で、ビアンはカイから目を逸らした。
「そ、それはそうと、さっきの地鳴りの音はあの子に何て答えたんだ?」
話を誤魔化そうと、ビアンは尋ねてみた。
「…………」
少しの間、じっとビアンを見て、カイは小さく息を吐いた。
「言ってないよ。聞かれなかったから」
「……意外とのんびりした子だな」
「いいじゃないか。彼女の両親にそっくりだ」
小さく笑みを浮かべ、カイは纏っていた黒いマントを脱いだ。
「だが、あまり油断出来ないぞ、カイ。いや、カエティス」
「分かってるよ」
大きく頷いて、カイ――カエティスは小屋の窓から、両親の墓に花を供えているリフィーアの後ろ姿を見つめた。彼女を見つめるその目はとても優しかった。