公爵の娘と墓守りの青年
「でも……!」

「はい。この話はおしまい。最期に、君の膝の上で空へ行けるのは嬉しいね」

女性に気を遣わせないように、努めてあっさりとした声でカエティスは言った。

「そんな状態で、そんなことを言わないでよ……」

女性は顔を赤く染めながら、大粒の涙を溜めた。

「はは。こんな状態だから、明るくしたいんだよ……」

何とか微笑し、カエティスは女性を見上げた。
ゆっくりと右手を動かして、女性の肩から落ちた白に近い緑色の長い髪を一房、手の甲で触れる。
霞んでいて見えない目で、彼女の顔と、今は自分達しかいない荒野を交互に見る。
荒野の向こうに、街の象徴の聖堂が小さく見える。
生まれ育った街と、彼女の顔を忘れないように何度も、何度も交互に見る。
しっかりと脳裏に焼きつけ、カエティスはもう一度、女性に目を戻した。

「……さてと。ネリー、ちょっと俺、寝るから……」

「え……カエティス!?」

女性の愛称を呼んで、カエティスはゆっくりと目を閉じた。
女性の髪に触れていた右手がぱたりと落ちた。

「いや……お願いだから……逝かないで……」

呆然とカエティスを見つめたまま呟いた。恐る恐るカエティスの手に触れた。冷たい。
冷たい彼の身体に、女性は絶叫に近い悲鳴を上げた。
何もない荒野で女性の悲鳴は天を貫き、白い光を呼んだ。



その光が、カエティスの運命を変え、静かに新しい歯車が廻り始めた……。
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