公爵の娘と墓守りの青年
都や国はもちろん、子供の寝物語としても有名なこの話の本を斜めに読み、明るい茶髪の青年はその緑色の目を輝かせた。
子供の時から何度も読んでいるが、その子供の時からこの物語の騎士――カエティスに青年は憧れていた。
そして、青年はこの物語の騎士をとても欲していた。
理由は、この物語の最後の一文にこう書かれていたからだ。
『女神に愛された心優しい勇敢な騎士は祝福を受け、彼はいつの日か甦るだろう……』
このように綴っているのだから、真実に違いない。
そう青年は思っている。
事実、青年は情報を掴み、物語の憧れの主人公らしき人物に会っているのだ。
カイという名の墓守りに。
「残るは彼が本物って証拠か……」
小さく呟き、青年は本を閉じた。本を机の端に丁寧に置き、机上に散らばった書類を整え、目を通す。
幼い頃から共にいる家臣に探らせた墓守りのカイの情報だ。
調べるとどんどん謎が深まる彼に、青年の予測が確信に変わりつつある。
本当は自分で探り、確信したいところだが、今は忙しく、とても外に出られる状況ではない。
王である父が急逝し、代わりを務めなくてはならない。
父の後を継ぎ、王になった青年は誰もいない公務室で溜め息を洩らす。
「伝説の守護騎士カエティスが僕の許で働いてくれたら、今の状況が変わるだろうか……」
青年は窓から空を見つめながら呟いた。