公爵の娘と墓守りの青年
ここクウェール王国の王都ルヴィアの中央に位置するクウェーヴィア城では、今、前国王が急逝したことで貴族達の派閥が二分する状態が続いている。
前国王の息子で、二十歳という若さの現国王ウェルシールを支持する貴族達と前国王の重鎮だった者達。前国王の弟の息子で強い権力を持つ貴族、トイウォースを支持する貴族達だ。
貴族達が二分し対立したことで、緩やかではあるが国の状況も悪い方向へ進んでいる。
国民達にはまだ影響はないものの、いずれ影響が出てくる。
それを防ぐためにも、青年――ウェルシールは何度も従兄でもあるトイウォースに対話を持ち掛けるのだが、拒否されている。
従兄に拒否され続け、打つ手のない若き王にとって、物語の中の伝説の守護騎士はいつの間にか拠り所になっていた。
一度、伝説の守護騎士カエティスの墓を訪れた際に会った墓守りは、物語の中の彼にとてもよく似ていた。
幼い頃からの憧れと、自分の周囲の現状を憂い、彼が本当にいたらという強い切望が同居しているのが、今のウェルシールだ。
「……本当にあの墓守りが彼なら、僕は王として頑張れるのに」
国民達が聞いたら、怒るであろうことを呟き、ウェルシールは重い息を吐いた。
午前の仕事が終わり、今は昼食時で幼い頃から共にいる家臣も休憩を取らせるために下がらせたので当分は誰も来ない。
今なら、城から抜け出せることが出来るかもしれない。
頭の中で誰かが囁いているような気がした。
「そうだ。今から墓守りの彼に会いに行こう」
そう決めたら、ウェルシールの行動は迅速だった。
手早くお忍び用の服に着替え、護身用の短刀を懐に忍ばせ、心配させないように家臣宛に手紙を短く綴る。
すぐ公務室の本棚の裏にある隠し通路から城を抜け出した。
逸る気持ちを抑え、漆黒の毛並みの愛馬に乗ったウェルシールは王都の外に出た。
目指す場所は王都の北、カエティスの都。あの伝説の守護騎士が生まれた都だ。
早馬で行けば、約半日で着く場所へウェルシールは目指した。
その行動が、対立する従兄との間に、更に深い溝が出来ることをこの時のウェルシールは知る由もなかった。