公爵の娘と墓守りの青年
「残念だったね。俺を殺すならもっとちゃんと狙わないと」
青年に言い、カイは血で濡れた短剣を近くの木に向けて投げる。
カイの挑発染みた言葉に青年は舌打ちする。
「おのれ……。また邪魔をしおって。貴様さえ、貴様さえいなければ、女神は既に我のモノになっていたのだ」
「――例え、俺がいなくても、彼女はお前のモノじゃない。彼女は彼女のモノだよ。と、言っても聞く気がないだろうけど」
聞く耳を持たない青年は黒い光を何度もこちらに向けて放っていく。カイは溜め息を吐いた。
シャベルを構え、カイは飛んでくるいくつもの黒い光を弾いていく。
「……っ!」
右手を何度も横に滑らせて青年の攻撃を防ぐが、痛みでカイは僅かに顔を顰める。
死なない程度の傷とはいえ、刺さった場所が胸とお腹の間だけあって流石に痛い。
どうやら血もたくさん流れているようで、足の感覚がない。
「……う〜ん、ちょっとマズイかも……」
小声で呟き、カイは青年と背後のイストを見た。
青年は攻撃を防がれていることに腹を立て、尚も黒い光を放っている。
リフィーアもウェルシールも少し落ち着いたようで、カイの少し近い場所で剣を握り、いつでも飛び出せるようにこちらを窺っている。