公爵の娘と墓守りの青年
そう言って、イストは緩く首を振った。
自分だって慌てたくはないのだ。
……なのだが、どうも条件反射で慌ててしまう。
「……もうトラウマか何かだよなぁ、絶対」
溜め息を吐き、イストは小屋へ入り、血まみれのままベッドに横たわらせる訳には行けないので、ひっそりと置いてある椅子にカイを座らせる。
「エル、トイウォース様は怪我をしているか?」
イストの問いに、エルンストは気を失っているトイウォースを目視する。
「いえ……見たところ特に怪我をなさっている様子はないです。トイウォース様より、墓守りさんの方が重傷ですよ」
「……そうだな。早く手当てしないと」
そう言って、イストは棚から木箱を取り出し、消毒薬が入った瓶の蓋を開ける。
「何で、その木箱に消毒薬などが入っているのを知っているのですか、イスト兄さん」
「ん? それはまぁ、また後で話すから」
カイのマントと上着を脱がし、イストは答えた。
カイの上半身が露になり、エルンストは目を瞠った。
「何ですか……その身体の傷は……。どうして、生きていられるのですか……」