公爵の娘と墓守りの青年
「ん? 何だい?」

「カイさんって……ご家族はいらっしゃるのですか?」

「家族? いないよ」

あっさりとした口調で、カイは答えた。

「えっ?! あの、失礼なことを聞いてしまってごめんなさい!」

あっさりと答えられ、リフィーアは驚きつつもすぐに謝った。
あっさりではあるが、もしかしたら怒っているのかもしれない、そう思ったからだ。

「気にしなくていいよ。全然、失礼じゃないから」

穏やかに微笑し、カイは言った。
その横で、ビアンも牙を見せる。

「そうですか? 良かった……安心しました。あの、もう二ついいですか……?」

「ん? どうぞ、遠慮なく」

頷きながら、カイは林檎を搾った飲み物を口に入れる。
リフィーアが差し入れてくれたものだ。

「あの……恋人っていますか?」

リフィーアの質問に、カイは口に入れた林檎を搾った飲み物を勢いよく噴いた。

「……え? さっきまで家族の話だったよね? それはもう終わったのかな?」

口の周りに付いてしまった飲み物を布で拭きながら、カイは尋ねた。
尋ねられ、リフィーアは大きく頷いた。

「そうなんだ……。いきなり、その話に発展するんだね……」

布を懐に戻し、カイはもう一度、飲み物を口に入れ、飲み干す。

「えーっとね、恋人は……まぁ、その……昔、いたよ。うん」

歯切れの悪い言い方で、小さく呟くようにカイは答えた。
彼のその答えに、リフィーアは僅かに眉を寄せた。

「あの、ということは今はいないのですか?」

「まぁ、今はお互い遠くに離れてるし、会えないからね。上手く言い表せないけど」

頬を掻きながら、遠くを見つめながらカイは言った。
彼が見つめる方向に恋人がいるのだろうか……そう思いながら、リフィーアは彼が見つめるその方向に顔を動かす。
その方向は墓地の奥へと続く道があり、その先にはこの都の長も、一般人も入ることが許されない場所がある。更にその先は王都ルヴィアがある。


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