公爵の娘と墓守りの青年
(王都に恋人がいるのかなぁ。でも、王都ならそんなに遠くないよね……?)

穏やかに懐かしむように遠くを見つめるカイに、リフィーアは首を傾げた。
王都ルヴィアは、カエティスの都から早馬で行けば、約半日で着く場所だ。
普通の馬でも約一日で着く。
もし、王都に恋人がいるのなら会いに行ける距離だ。
王都よりももっと遠い場所に恋人がいるのだろうか。
そこで、リフィーアははたと気付いた。

(王都よりもっと遠いところって、もしかして……死者の世界?!)

もし、そうなら確かに会えない――遠い場所だ。
だから、カイはこの世で死者の世界に一番近い墓守りをしているのだろうか。

(本当にそうなら、カイさん、悲しすぎるよ……)

一つひとつ散らばった欠片が繋がるような気がして、リフィーアは眉を八の字にしてカイを見た。

「……おーい、リフィーアちゃん。ぼーっとしてるよ? 大丈夫?」

リフィーアを心配そうに覗き込むように顔を近付け、カイは声を掛ける。
考え込んでいたリフィーアはカイの声で我に返り、目を彼に合わせた。透き通った水のような水色の右目と鋼のような意志の強い銀色の目にぶつかる。
色が違うその不思議な目が、とても近い位置にあることにリフィーアはやっと気が付いた。

「――! わぁっ、カイさん、近いっ」

「ああ、大丈夫、大丈夫。襲わないから。リゼルくんとフィオナちゃんに怒られちゃうよ」

リフィーアの反応に苦笑しながらカイは言った。

「俺の恋人とかそのあたりの話は今度にして、今日は帰るかい?」

心配そうにリフィーアの顔を覗き込み、言う。

「い、いいえっ! 大丈夫ですよ! 聞きたいことがまだまだあるんです。それを少しでも解消しないと眠れません!」

「あはは……。俺のことを聞いたって、とてもつまんないよ?」

「そんなことないですよ。カイさんとたくさんお話しがしたいです!」

胸の前で拳を作り、リフィーアは目を輝かせた。
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