公爵の娘と墓守りの青年
最後に触れた冷たさではなく、温かい血の通った育ての母の手に、カイは思わず泣きそうになる。
もう何百年も感じたことがない暖かさに、カイはしばらく浸っていたいと思ってしまう。
無理だと分かっていても。
もう何百年も経っているのだから、出来るはずがない。
カイは残念と思いつつも意を決して、目を開けた。
目を開けると、いつもの自分の小屋だった。
育ての母と共に暮らした小屋で、今は相棒の魔狼のビアンと暮らしている小屋だ。
長い年月建っているこの小屋も改築を何度か行なったが、流石に老朽化はしている。
カイはベッドから上半身を起こし、自分の身体を見る。
包帯だらけの身体に、眉を寄せる。
「……えーっと、何があったんだっけ?」
自分のこの状況に、カイはしばらく考え込む。
「……あ、そうだ。俺、リフィーアちゃん達を助けに行ったんだっけ。で、空腹と怪我で倒れたんだ」
思い出したように、ぽんと手を叩き、カイは呟く。
「……隊長、空腹も理由で倒れたんですか」
「あ。イスト君……。無事だったんだね。良かった」