公爵の娘と墓守りの青年
頬を掻きながら、カイは答えた。

「ひ、人の姿?!」

「そう。それでまぁ、喋れるわけなんだよね」

「あの、どうして人の姿ではなく、今は狼の姿なんですか……?」

「さぁ……? 俺も知らないな、そういえば。ビアン、何で?」

四本足で横に立つ狼の姿の相棒に、カイは尋ねた。

「そこで俺に振るのか、お前は」

呆れた声でビアンは呟き、大きな溜め息を吐く。
その呟きにカイはにんまりと笑みを浮かべる。

「いやぁ、相棒とはいえ、説明は自分でしないと。それに本当に知らないし」

「……はぁ。お前、そういうところは抜けてるよな」

狼の姿でビアンは首を左右に緩く振った。
その仕種が人間じみていて、ビアンが人の姿をしていたことを物語っているようにリフィーアは思えた。

「――俺が何故、狼の姿なのかは、秘密だ」

ぷいっとそっぽを向き、拗ねるようにビアンは答えた。
目を輝かせて答えを待っていたリフィーアはがっくりと項垂れた。

「ビアンさんー! ちゃんと答えて下さいよ!」

頬を膨らませて、リフィーアはビアンに怒った。

「カイはともかく、小娘に答えるのが惜しい」

もう一度、ぷいっとそっぽを向き、ビアンは言った。

「どういう意味ですか、それ!」

尚も頬を膨らませて、リフィーアは声を上げた。
その仕種が女の子らしくて、愛らしい。
そんなふうに思いながら、ビアンとリフィーアをにこにこと穏やかに微笑み、カイは静かに見た。
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