公爵の娘と墓守りの青年
「……でも、貴方が無事なら私は……」

――それでもいい。

そう言おうとしたが、彼女は口を噤んだ。
首を緩く振る。振る度に長い白に近い緑色の髪が揺れる。

「それでもいい、だなんて言えない。私、貴方に会いたい……」

涙が溢れそうになり、彼女は抱えていた膝に顔を埋める。
ひどい別れ方をしてしまった。
意識のない彼が目覚めるまで、傍にいたかった。
なのに、父と兄と姉達が彼女を彼から無理矢理引き離し、この何もない白い部屋に閉じ込めた。
その状況を見ていた彼の部下がきっと説明をしてくれていると思う。
けれど、彼女から彼にどうして傍にいれなかったのかを伝えていない。

「……ちゃんと伝えたいな。会いたいな……」

長い年月の間、何度も何度も繰り返し呟いた言葉を今日も呟く。
昔、彼からもらった名も無き透き通った水色の小さな石の首飾りを白魚のような綺麗な手で彼女は大切に握る。
彼女は辺りを見渡した。
何もかもが白すぎて、部屋の出入口が同化していて分からない。
部屋から逃げ出そうにも、彼女は逃げ出せずにいた。
自分の持つ力も父達に封じられ、使えない。

「……何のための女神の力よ……」

自分の力の無さに、彼女は唇を噛んだ。
強く噛んでしまったのか、整った綺麗な唇から血が流れる。
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