公爵の娘と墓守りの青年
「……そういえば、トーイはカエティスといつも何かを競い合ってましたよね。引き分けばかりでしたが」

お互い親友と呼び合いながらも、様々なことを競い合い、引き分けるカエティスとトイウォースを思い出し、ネレヴェーユは口元を綻ばせる。

「ええ。実を言いますと、今の生でもカエティスと競いたいと思っているのですよ」

爽やかに笑い、トイウォースは言った。
昔はともかく、伝説の守護騎士と呼ばれるようになってしまったカエティスと、別の生を受けながらも前世の記憶を持っているトイウォースが競い合いたいと思うのは無理もない。
カエティスには会えなかったが、五百年間、この部屋でクウェール王国を見守り続けたネレヴェーユは苦笑した。

「競い合うのもいいですが、お互い怪我をしないようにして下さい」

「はい、分かっております。では、ネレヴェーユ様。今から封印を解きます」

トイウォースは女神を閉じ込めた張本人のネレヴェーユの父である神に教えられた通りに壁に手を当て、言葉を紡ぐ。
人間では発音が難しいとされる神の言葉を、トイウォースは間違えずすらすらと紡ぐ。
ネレヴェーユは驚いて青年を見る。
……本当に発音が出来ている。
金髪で整った綺麗な顔の青年は集中していて、ネレヴェーユが見ていることに気付かずに言葉を紡いでいる。
彼が紡いでいる神の言葉は、封印された扉の開放と、封印されたネレヴェーユの力の解放だ。
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