公爵の娘と墓守りの青年
一斉に飛び立ったカラスに驚いて、声を上げたリフィーアは尻餅をついた。

「きゃっ! び、びっくりしたぁ……あっ」

驚きの余り、持っていたパンと花を勢い良く放り出してしまったことにリフィーアは気付いた。
放り出してしまったパンと花が放物線を描いて、黒い影へと吸い込まれていくように落ちていく。
パンが先に落ちた。約一週間分のパンが詰まった紙袋が黒い影に直撃した。
リフィーアが毎日食べている硬いパンも入っているため、直撃した時に少し鈍い音が彼女の耳にも聞こえた。
それに追い討ちをかけるかのように花束が二つ、両方とも茎の部分から落ちてきた。
黒い影の盛り上がった部分に尖った茎の先が刺さる。
リフィーアは尻餅をついたまま、固まった。

「…………どうしよう」

そう呟き、リフィーアは呆然と黒い影に刺さった二つの花束と約一週間分のパンが詰まった紙袋を見つめた。
黒い影が死体でも、生きていても、悪気がないにせよ、これはかなり失礼だ。
のろのろと立ち上がり、リフィーアは近付いた。
黒い影に近付き、ゆっくりと覗き込んだ。

「やっぱり人だ……! どうしようっ! しかも、男の人だし……」

リフィーアは黒い影――男の様子を窺った。
黒い影に見えたのはどうやら黒いマントを纏っていたからのようだ。
首から下を黒いマントで覆い、倒れた衝撃からなのかフードが頭を隠していた。
男が生きているのか確認するため、リフィーアはゆっくりとフードに手を伸ばした。
ゆっくりとフードを外し、顔を確認する。
金の色が所どころ混ざった燃えるような赤く短い髪、優しそうな整った顔立ちの男の目はしっかりと閉じられている。
< 9 / 482 >

この作品をシェア

pagetop