【完結】終わった恋にフラグはたちません!
い、いやいやそんなはずはない……きっと他人の空似と言うやつだ。この世には自分に似ている人物が三人はいると言うらしいし。
だってあの彼がこんな所にあんな恰好でいるわけがないじゃない。
自分の中で妙な納得に至った私を、その男性スタッフは相変わらずジッと見つめてくる。それに何やら少し固まっているような気が。
──でも、本当、ソックリ過ぎ……
「──い」
「?」
「──伊織?」
…………え…………?
「伊織だよね?! うわぁ、何年ぶりかな──まさかこんなところで逢うなんて思わなかったよ……って、え、あれ、もしかして僕のこと覚えてない?」
久しぶりの再会だというのに、何の反応も示さない私に彼は少し寂しそうな表情を向けてきた。
覚えてない? ですって……忘れるわけないじゃないの! 三栗谷 祐一、一時は夫婦になった仲なのに。
ただ私は……今この状況が理解できないだけ。だって、あの彼が頭にうさ耳つけてヒロインキャラのTシャツを……着てる?
それに、何でよりによってこの場所で逢っちゃうかなぁ?!
「え、っと、ゆ……ゆうちゃ、んじゃないわよね……?」
「なぁにー、覚えてるじゃない! 伊織とは何年ぶりだろうねぇ─。 あ、もし良かったらこの後……って、え? お─い、伊織!?」
せっかく大好きな作家さんのブースまであと少しの所だったのに……私は頭が真っ白になって、いつの間にかその場から逃げ出していた。
ヤバいっ、ヤバいっ、ヤバいっ、ヤバいって!! 絶対、バレたよぉ─!
遠くでゆうちゃんの制止する声が響いていたが私の耳には全く届いていなかった。
私がその時、頭を抱えていたことはただ一つ。
──私がアニメオタクだって、ゆうちゃんに絶対バレたぁ────!!
そのことだけだった。