【完結】終わった恋にフラグはたちません!
巻さんに代わり今度はゆうちゃんが高光 杏に話しかける。
「高光さん。僕達が何の証拠もなくあなたにこんなことを言うわけないじゃないですか。調べただけの証拠が不服なら証人も用意しましょうか? ……ね、山上さんっ」
ゆうちゃんに呼ばれオドオドと歩いて向かってきたのは、三十代…後半ぐらいの女性。
白シャツの上には黒のパンツスーツで身を纏い、ロングの黒髪を黒ゴムで一本に結んだその顔には分厚い眼鏡がかかっている。一言で言うならば地味めの大人しそうな女性。
しかしその山上と呼ばれた女性の登場で、明らかに動揺を隠せない高光 杏の姿が見て取れる。
「や、山上が何なのよ! 彼女が何で証人になるわけ……」
「彼女はあなたの父親、斑目組から高額な借金をされてますよね。あなたはそれを材料に、ずっと彼女に色々と汚いことをさせてきたのではないですか」
「わ、わた、し……私、ずっと、高光さんに脅されていたんです! だから…仕方なく高光さんの言う通りに、男性の飲むお酒に睡眠薬を入れたりして……」
「ちょ、ちょっと山上! 黙りなさいよっ!」
仮面が剥がれてしまった彼女はとても醜い表情を見せる。だが彼女はもうそんなことに構っていられないところまで追いつめられている感じだ。
そこで、巻さんが最後のとどめを刺し始める。
「山上さんは何かあったときあなたとの今までの会話を全て録音されているようですよ。それもなかなか勇気が出ず今までそれは表に出せなかったようですが。……どうです? これ以上の証拠が必要なのであれば更に調べて報告しますけれども?」
「も、もうやめてよ! な、何なのよぉ─!」
その場に居たたまれなくなった高光 杏は、そんな安っぽい捨て台詞を残し急いで店を出て行ってしまった。
後半から彼女が大声を出し始めていたからか、店にいたお客達もざわめき立ちこちらをチラチラと見つめている。
そして、完全に出遅れた私達三人はこの後の行動をどうしようかと迷っていた。
ゆうちゃん達が何もかも全部、高光 杏に言ってくれたおかげで驚きはしたけれど、胸のモヤモヤは何だかスッキリした感じだ …────が、そんな時、突然ゆうちゃんが私達のテーブルに近寄ってきたのである。
「ハァ─……伊織─、こんな所で何してるの?」
「ゆ、ゆうちゃん……き、気づいて、た?」
「うん、バレバレだね」
そう言ってゆうちゃんは、複雑な顔をしながらまたハァ─と大きな溜め息を一つ吐く。
……や、ヤバい。ゆうちゃん何だかかなり、怒って、いる?
「澪先生─! 僕、もう担当じゃないのにこき使うのやめてくれませんかね─」
「……あ─、まきちゃん、ゴメン。今度埋め合わせするから……ここ、後はまきちゃんに頼んでもいいかな」
「そう言うと思ってましたよ。──じゃあ、これ」
──チャリン……
巻さんは何もかもお見通しのような感じで、ゆうちゃん目掛けある物を宙に投げつけた。
「このホテルに部屋取っておいたんで、早く何のわだかまりもないよう、彼女と話し合ってきてください」
「──まったく…よく出来た元担当さんだよ、まきちゃんは」
そんな二人のやり取りを呆然と見ていた私の手を突然ゆうちゃんが握りだし、グイッと体を引っ張っていく。
「え、ゆうちゃん!?」
ゆうちゃんに手をひかれ引っ張られるがまま、ちょうど扉が開いたエレベーターへ私達はそのまま乗り込んでいったのである。