【完結】終わった恋にフラグはたちません!
◇ ◇ ◇
「高光 杏、今日芸能界引退したよ」
「え!?」
巻さんの一言でリビングに集まっていたゆうちゃん以外の、私と石川君、律くんに双葉ちゃんの四人は同時に声をあげ驚く。
「まぁ、もうさすがにいられないだろうね。……マネージャーの山上さんは大丈夫なの?」
「あぁ、元々ほぼ不当な利息だけが残ってたから紹介した弁護士に後は頼んでおいた」
「あ、でもそれじゃあ、澪先生のドラマのヒロインはどうなるんですか?」
「それは大丈夫。まだ発表前だったし、高光 杏と最終選考に残ったもう一人の女優さんが引き受けてくれたから。…たぶん彼女のほうが澪先生の原作には合ってると思う」
そっか─…良かった。ゆうちゃんの原作が無事ドラマ化になりそうで安心した。
ホッと胸を撫で下ろしているところに、何やら熱い視線を感じ始めた私は、その視線の先に目を配る。すると、巻さんが珈琲を飲みながら私とゆうちゃんを交互にチラチラと見つめてきたのだ。
「──で、澪先生達は彼女と上手く話しはついたんですか?…よもや、イチャついただけで終わっていませんよね」
「あ─…まきちゃん、言い方─」
巻さん、そんなこと…こんな皆のいる前で言えるわけないじゃないですか!
昨日のことを思い出すと火が出そうになっちゃうほど顔が火照ってしまう。ホテルの部屋まで取ってくれた手前、巻さんに何て言おうか考え込んでいた時──
“ピンポーンー”
ちょうどチャイムが鳴り響いたのである。
まさに天の助け!
誰だかわからないけれどナイスタイミング!
「あ、僕が出るからいいよ」
いや─…ゆうちゃん、今は私が行きたかった─。この蛇に睨まれた感じ…メチャクチャ居づらいよ。
「──っていうか、そんな状況だったらイチャつくよね、普通……ってどうしたの双葉っち?」
「……いえ。考えたくなくて今、現実逃避している最中なので気にしないでください」
「ふ─ん……って、石川さん!?…も何で落ち込んでるの」
「立ち直るにはもう少し時間が必要だからさ」
「ふ─ん…皆、意味わかんないな─」
あまり各々の詳しい状況を把握していない律くんにとっては何が何だかわからないのは当た、り……………
………………え?
「お─っ!! 伊織─、ひっさしぶりだなぁ─」
「お、お兄ちゃん!?」
廊下に続くドアの方へふと顔を向けると、私の目に飛び込んできたのは真っ黒に日焼けした何年ぶりかに見るお兄ちゃんの姿──
伸びた髪の毛を一本に結び、服は白Tシャツに茶色い短パンというシンプルな装い……なんだか原始人化している。
お兄ちゃんに続いて入ってきたゆうちゃんも額に手を当て、やれやれといった感じだ。