【完結】終わった恋にフラグはたちません!
(ん? なんか伊織の様子がおかしい……顔が赤くなってる?)
「おかえり」
「……ちょ、ちょっと澪先生! そんな格好で外に出ないでください!」
(恥ずかしがってる伊織……可愛いな─、ってそうじゃなくて僕、まだ上半身裸のままだった!? でも心配でそれどころじゃ……)
「だってさ、エントランスのオートロックを開けました─ってスマホに通知来てから伊織、一向に来ないし心配になったんだよ─」
「……え、今ってそんな通知来るんですか?」
「他は知らないけど、ここは防犯上にね。──それより伊織、何で敬語なの? ずっと “澪先生” って呼び方だし」
(そう。朝から気になっていたけど、伊織は僕と話している時、ずっと他人行儀な感じだ。
──でも……まぁ、仕方ないと言えば仕方がない。八年前、伊織の為とはいえあんな一方的な別れを切り出したんだ。
自分でもそう理解はしているはずなのに、やっと逢えたのに……ずっとこのままなのも何だか嫌だ)
自分の気持ちがあべこべでよくわからなくなる。
そして伊織は、更に寂しくなるような他人行儀なことを言ってくる。もうそんな言葉を伊織から聞きたくなかった僕は、手に持っていた “あるもの” を一粒、伊織の口の中に放り込んだ。
それで伊織の他人行儀な言葉を塞ぐことはできたが、反対に突然の僕の行動に伊織は驚き、目をまん丸くしながら僕をジッと見つめてきた。
(ねぇ伊織。……伊織は覚えてる? この金平糖……)
「伊織、これ好きで昔よく食べてたでしょ。ほのかに甘いものを食べると疲れが取れるって。……お疲れ様、伊織」
伊織の口の中でコロコロと動く金平糖──
そんな口の動きに僕の目は伊織に釘付けされてしまう。
目が離せない。
僕は今すぐにでも伊織をどうにかしてしまいたいという欲望があることに気付く。
──今すぐ伊織を抱き締めたい。
けれど、事を急ぎすぎると何もかもダメになってしまう。
そう思い直し、僕は何とか自分の欲望を抑え込みながら伊織を部屋まで案内していった。