【完結】終わった恋にフラグはたちません!
僕が今住んでいる高層マンションは二年ほど前に買ったもの。
景色も良かったし何より寝室部屋も五つほどあり、仕事部屋やリビングも広めに設計されている。これならアシスタントが増えても泊まったり仮眠取ったりできるだろうと思い、この場所に決めた。
(──でもまさか、その一室に伊織が来ることになろうとは夢にも思わなかったが)
部屋に案内しつつも自分のすぐ後ろに伊織がいると思うとなかなかに緊張する。
(それにさっきから緊張と一緒に伊織のピリピリした雰囲気がすごい気になる……)
「じゃあ、伊織はここの部屋を使って。一応ベッドはアシスタントが使ってたものが置いてあるから。食器もキッチンも好きに使って……あ、ただ浴室やトイレを使うときは念のため鍵かけてね」
(りっちゃんや石ちゃん達に伊織の裸なんて見せられるかって)
「うち、アシスタントもよく泊まったりするから──って、何でさっきから怖い顔してるの、伊織?」
慌てて笑顔を作りその場をやり過ごそうとする伊織の姿に、僕は少し寂しさを感じてしまう。
(強引にこの同居を進めてしまったけど、伊織はやっぱり僕との同居は嫌なのだろうか? 伊織の本心を聞いてみたいけど、それで出ていくと言われても嫌だし…)
「いえ、すみません、お気になさらず。……それより静かですけど石川君達は?」
「あぁ、もう原稿は上がったから石ちゃんとりっちゃんは空いてる部屋でもう寝ちゃってるよ、最近徹夜続きだったから。ふたばちゃんは女の子だから途中帰したけどね」
そう、アシスタント……説明をしながら、僕は伊織に気づかれないぐらいの小さな溜め息を吐く。本音を言うと、出来たら同居初日は伊織と二人っきりになりたかった。けれど徹夜続きで石ちゃん達の体力も限界だったのだからそれは仕方ない。
それに、伊織は伊織で僕の原稿上がりを知らなかったことにご立腹のようだ。