【完結】終わった恋にフラグはたちません!
◇ ◇ ◇
“週が明けたらまた同じような日々……”
二日前にこのような考えを持っていた自分に言ってやりたい。同じような日々なんてありえないのだと。
私の勤務する出版社 “高藤出版” は、あまり大きくはないものの様々な出版を手掛けている。小説、漫画、絵本は当たり前、その他にも歴史ものや図鑑もの、マニアックな専門書等まで幅広く取り扱う。だからなのか、大手ではないものの多くの社員が働いているのだ。
そして我が出版社で一番の売り上げを誇っているものが、小説や漫画の類だ。特に漫画は最近、ある大型新人漫画家の作品が当たっておりドラマ化、映画化、アニメ化、グッズ化などで一気に売り上げを伸ばしている。
絵本の編集も嫌ではなかったが、ずっと好きだった少女漫画の編集者になることを夢見て今まで頑張ってきた。
私もいつかは、漫画編集者になってヒット作を世に出すんだと。
【絵本編集部 立木 伊織殿──
本日六月七日付で貴殿を現在の部から解き、漫画編集少女雑誌部門への異動を発令する 】
今朝、いつも通りに出勤しいつも通りに自分のデスクへ向かっていると突然、背後から私を呼び止める甲高い声が聞こえてきたのだ。
「伊織せんぱ─い! すごいじゃないですかぁ、念願の夢叶いましたよねぇ─! でも美鈴、寂しくなっちゃいます─」
振り返らなくてもわかる。この甲高いブリブリな声の持ち主は、私の五つ年下の後輩 “間宮 美鈴(二十五)”だ。
彼女の入社当時、私が指導係になってからというもの、なぜか妙に懐いてくるようになった。とても人懐こくて明るくて悪い子ではないのだけれど、まだまだ学生気分が抜け切れていない感じだ。小柄な体系で茶髪ユルふわパーマのミディアムヘアー……男性が好きそうな外見をよく知っている。
──それに、私のできないファッションを彼女はいつも完璧に着こなしていた。
「美鈴さん。社会人なのだからまずは挨拶が先ではないですか? それに話の意味が全くわからないんだけど」
「やぁだ─、先輩まだ掲示板見ていないんですか─?」
「掲示板?」
「先輩、今日から異動らしいですよ。少女漫画の編集室に」
──少女、漫画……
そんな彼女の言葉を聞いても、一体なんのことなのか理解しきれていなかった。きっと信じられない気持ちのほうが強くて、自分の頭ではなかなか処理が追い付いていなかったからかもしれない。