【完結】終わった恋にフラグはたちません!
──澪先生。
ここ三年ほどで急成長してきた少女漫画家だ。“この恋の帰る場所”という漫画が大ヒットして、瞬く間に連載やアニメ化それに映画化も実現し、今度はドラマ化にもなるっていう話。いやらしいが、高藤出版にとっては金を生む作家さんなのである。
もちろん私も、今出版されているコミックは全巻持っているし、アニメも全録画は当たり前、映画も三回は見ている。
澪先生は私にとって雲の上の憧れる先生なのだ。
「まさか異動早々、澪先生のお仕事場を拝見できるなんて思ってもみませんでした!」
「……立木さんは澪先生のファンなの?」
「はい! もう先生がデビューした頃からの大ファンですっ! ──こんなに女性の心理を上手く描くんですから、きっと素敵な女性なんでしょうね─」
有頂天……という言葉はまさに今の私のことを言うだろう。澪先生に逢えるとわかった時から興奮が止まらない。嬉しい、緊張、ドキドキ……色んな感情が混ざり過ぎてどうにかなってしまいそうだ。
でも、そんな私の言葉に巻さんは不思議そうな顔を向ける。
「あれ、そっか……立木さんはまだ知らないんだっけ」
「──何がです?」
「澪先生って男性だよ」
「えっ!?」
──男性?……あんな素敵な絵柄とストーリーを描く人だから、私てっきり女性かと。
今日異動してきたばかりのぺーぺーな自分が、澪先生のこんな秘密めいた話を聞いても良いのか……何だかとても申し訳ない気持ちになってきた。
「……あぁ、それに」
「ま、まだ何か秘密が?!」
私の慌てっぷりにまたもや巻さんはクスッと静かに笑いだす。
「澪先生の新しい担当、立木さんになったから」
「……へ……私が澪先生の……た、担、当、ですか?」
わ、私が売れっ子漫画家の担当──!?