【完結】終わった恋にフラグはたちません!

高藤出版から電車でおよそ三十分ほどのところにある高級タワーマンション“KiRaMeKi(きらめき)”。
あちこちで同じようなタワーマンションは建ってはいるが、その中でも群を抜いて “KiRaMeKi” はお値段も階数も一番高いマンション。

巻さんと私は今、そのマンションの一番最上階(四十階)にある一室の前に立っている。見るからに高級そうなフロアに重厚感のある扉……何もかも初めて味わう空間だ。さすが、売れっ子漫画家ともなれば待遇も違う。

「あの、巻さん……異動してきたばかりの私が何でこんな売れっ子漫画家さんの担当に? 元々、巻さんが担当だったんですよね」

色々なことがあまりにも唐突過ぎて、何から整理したらいいのかわからない私は不安を隠せずにいた。

「あ─……僕、来週から文芸編集へ異動になるんですよ。それに立木さんのことは──」
ドタドタ……

──ん?

ドタドタッドタタッドタタッドタッッ──!!

な、なにこの音?

巻さんが話かけている途中、突然ものすごい速さで何者かが玄関へ向かってきているのがわかった。──などと、悠長に考えている間もなくドアが勢いよく開いたのだ。

「まきちゃぁ──ん!! やっぱりまきちゃんじゃなきゃダメ─! あの代わりの子じゃ全然、創作意欲が湧かないのぉ─、ねぇまきちゃん戻ってきてよ─!」

だ、誰?! え、いきなり何?

扉が開くと同時に勢いよく出てきた一人の男性。男性は巻さんにものすごいスピードで飛び付き、首を両手でガッシリとホールドしている。
その力強さで少しよろめきかけた巻さんだったが、動揺などは全くしていない。どうやら、こういうことは慣れているようだ。

「無理ですよ、澪先生―……」

え! この人が澪先生?!

澪先生と言われた人物は眼鏡をかけボサボサの伸びた前髪を、柔ちゃん状態に一本に結んでいるように見える。それに巻さんと同じぐらい背が高そう。──顔は……巻さんの肩にスッポリ埋めていてわからない。

「僕、文芸のほうに異動になるって言ったじゃないですか。それに締め切りは明日ですよ……こんなことになると思ったからイベントに行くの反対だったんです。──あ、それに先生のご所望の人物連れてきたので、今すぐさっさとハイスピードで仕事仕上げてくださいね」
「──ご所望……あぁ編集長、通してくれたんだ」

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