【完結】終わった恋にフラグはたちません!
澪先生の突然の行動に唖然としてしまったが、挨拶しなきゃと急いで自分の目を覚まし勢いよくお辞儀をしたのだった。
「は、はじめまして! 私、立木伊織と申します! 漫画の編集に携わるのは初めてですが澪先生のお役に立てるよう、精一杯何でも致しますので宜しくお願いしやす!」
……う!あぁぁぁ─ 最後で噛んでしまったぁ──! 澪先生の前で恥ずかし─……
「フッ、クックッ……」
お辞儀した自分の頭上から澪先生の必死に耐える笑い声が聞こえてくる。
先生……笑ってる?……ほんとっ、恥ずかしい! 何やってるのよ私。
「へぇ─……何でもしてくれるんだ、伊織」
────え……
そ、そういえば……さっきからどこか聞き覚えのある声だとは感じていた。
自分の胸がドキドキしている──私は下げていた頭をゆっくりと上げた。
「──う、嘘……ゆ、ゆう、ちゃん?」
な、何このデジャヴ感──
顔を上げた澪先生は、八年前とも先日逢ったゆうちゃんとも違う装いだった。
いつ洗ったかもわからないジャージに伸びに伸びた髪の毛、やはり前髪を一本に結んでいる。それに洒落っ気も何もない普通の黒淵眼鏡──
「……もしかして、ゆうちゃんが澪先生?」
「そうだよ」
ゆうちゃんはボロボロの格好とは似つかわしくない可愛い笑顔で答えてきた。
「良かった、やっぱり彼女だったんですね。先日のイベントで見かけた時、どこかで見た子だなと思って澪先生に立木さんのこと話してみたんだけど……まさか澪先生の知り合いが立木さんだったとはね」
いやいや顔見知りというよりも元夫婦なんですけどもって、そうじゃなくて……え──と……既に頭がキャパオーバー……イベントってもしかして、あの?
「ま、巻さんも、……もしかして、澪先生と一緒にあの場に、いらっしゃっ、た?」
「うんいたよ。澪先生に頼まれて嫌々仕方なく。立木さん、ものすごい勢いで逃げてたね─」
お─────のぉ───!!
アァァァ──会社の人に私のオタクっぷりを知られてしまったぁ──……
激しい動揺を隠しきれずにいた私は、自分が一体何に狼狽えているのか、もうわからなくなっていた──そんな時。
ゆうちゃんこと澪先生が突然私の顔を覗いてきて、またあの可愛らしい笑顔を振り撒いてきたのである。
「これから色々よろしくね。新しい担当さん!」
いや! これ気まず過ぎでしょ────!?