【完結】終わった恋にフラグはたちません!
第四話 ☆ アシスタントのゆかいな仲間達
一旦、落ち着こう。
頭を整理してみよう。
私は周りに気づかれないぐらいの深呼吸を自分の中で何度も繰り返していた。
澪先生に連れられて部屋の中へ通されている最中も、私はどこかフワフワと心ここにあらずの状態。
──澪先生がゆうちゃんということは、あの大手商社は辞めてしまったのか……っていうよりそもそもゆうちゃん、絵なんて描けたの? 八年前はそんな素振り、見せたこともなかったのに。……それに、もしかしてゆうちゃんが私を担当者に指名した?
「──さん、立木さんっ」
一気に押し寄せてきた現在の状況を把握するには時間が足りない。私は名前を呼ばれていることにようやく気づき現実へと引き戻された。
「──あ、はい! すみません、何でしょうか」
「うん、これからは立木さんが澪先生の編集担当だから、澪先生の周りのことは徐々に覚えていってねって話。まずは……澪先生のアシスタントさん達を紹介しようか」
アシスタント?
考え事をしていて気がつかなかったけれど、いつの間にか澪先生の仕事場がある部屋に案内されていたのだ。
リビングとは別に二十畳ぐらいありそうな広い部屋の真ん中には、六つの机とパソコン、椅子などが向かい合わせに並ぶ。そして、大きなメインの窓側には更に広い机がもう一つ……先生のデスクだろうか。他にもソファーや本棚、コピー機などが壁際に置かれている。
そして大きな窓からは高層マンションの特権とも言うべき絶景が広がっていた。
「澪先生の専属アシスタントさんは今のところ三人いるんだ。……一番右奥の机を使っているのが石川 大和君。その隣が浅見 律君……そして左奥の女の子が松下 双葉さん。── 皆さんにも紹介するね、彼女は……」
「新担の立木 伊織さんですよね! 僕っちは浅見 律、二十三歳、特技は誰とも仲良くなれることで─す。伊織っちも仲良くしてくださいね!」
「は、はぁ……」
い、いきなり年下から呼び捨て?
巻さんから紹介される前に、自分を売り込み私目掛け突進してきた “浅見 律” は見るからに話すからに陽キャな人物。近づいてくるなり私の両手を握ってきたのである。
背は私よりも低めで少しパーマのかかった茶色の髪型、目が大きく女の子みたいな男の子……世間で言う“子犬系男子”というやつだ。
っていうか、この子……人との距離近くない? 陽キャの特徴なの?