【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「……りっちゃ─ん! ここ、ト─ン張り間違ってるよ─。今すぐやり直してねぇ─」
「嘘、マジですか!? すぐ直します!」
澪先生に間違いを指摘された浅見 律は、握っていた私の手を直ぐ様離し、自分の仕事へと戻っていく。
陽キャな人物に慣れていないからどうしようかと思ったけど……澪先生が浅見君の興味を途切れさせてくれて助かった。
「りっちゃんはね、ト─ン張りと色彩着色が担当なんだよ。一番若くて一番新しいアシスタントさん。いい子だから伊織もすぐ慣れるよ」
「あ、はぁ……」
そう言いながら、澪先生は私の右肩に腕をかけ耳元近くで話しかけてくる。その触れられている右肩から徐々に熱くなり体全体が固まっていく自分がいた。
──じゃなくて、澪先生も十分距離近過ぎだから! それに私達が元夫婦だったってことを知られたら、お互いこれから色々とやりにくくなるし。
でも一難去ってまた一難。
今度は一番初めに紹介された“石川 大和”というアシスタントが核心にズバッと触れてきたのだ。
「──で、澪先生と立木さんはどういったご関係で? ただのお知り合いという感じには見えませんが」
“石川 大和”、 彼はなかなか洞察力に長けているようだ。このアシスタントの中では一番落ち着きを払っていて、童顔っぽい顔立ちとは裏腹に大人な雰囲気も見受けられる。
外見も内面も浅見君とはまた違い、短髪黒髪、何かスポーツでもやっていたのか体型は意外とガッシリとしている。それに私よりも背が高い。一見、硬派な男子という感じだ。
「あのっ、全然、恋人なんかじゃないです! えっと、つまり私の兄とゆう……澪先生が友人だったので、その関係でちょっとした顔見知り程度で。ですよね、先生!」
「…………」
私は何とか話を合わせてもらえるよう、澪先生にパチパチと目で合図を送る。きっと先生も同じ考えのはず。──のだけれども、先生の顔は無表情で何を考えているのか読み取れない。
「も、もうやだな─! 先生が黙ったら皆さん余計怪しく思うじゃないですかぁ! 私とは何も関係ないってちゃんと──」
「彼女は元嫁だよ、ね、伊織?」
「!?」
ハイ──ィ? ゆうちゃん何考えてるの?そんな本当のこと言ってこの先やりにくくならないの?……私はめちゃくちゃやりにくいけどね!
──でも……ゆうちゃんってこんな感じの人だったっけ? ほらー、皆がビックリして目がまん丸く……
「え!? 澪先生、自分はバイセクシャルだから結婚はしないって言ってませんでしたっけ?!」
──────………………は?
石川君と浅見君が同時に同じ言葉を澪先生に投げ掛ける。そして私はというと、今までの記憶が飛んでしまうぐらい……頭が真っ白になっていた。